2022-01-01から1年間の記事一覧

にごりえ_読書感想文

はじめての樋口一葉。大学時代お世話になった教授の娘さんは樋口一葉からとって「一葉ちゃん」と名付けられたそうで、この話を聞いて以来ずっと彼女の作品を読んでみたいと思っていた。教授の専攻は国文学。文学部に入学した身で恥ずかしいが、彼の授業を受…

ペンギン・ハイウェイ_読書感想文

夏の旅行のお供にぴったりな本は何か。ペンギン・ハイウェイだ! 旅行には本が要る。敬愛する森見氏のお子は私の旅行をより一層明るく楽しいものにしてくれること間違いなしと信じている。彼の作品群の中で最も夏を感じるものを注文、ペンギンを連れて行くに…

海と毒薬_読書感想文

遠藤周作氏の海と毒薬を読み終えた。二周した。 これは祖父母宅の本棚で見つけて、勝手にもらってきたものである。砂埃や日光に長年晒されてきた「ベルばら」や「タッチ」「マカロニほうれん荘」など昭和の名作漫画の中に、なぜか挟まっていた華奢な本。 短…

人間_読書感想文

ずっと気になっていた又吉直樹氏の「人間」。買ってまだ読んでいない4冊くらいの小説と1冊の漫画、ページをパラパラしただけの3冊の雑誌を差し置いて読み切った。 ネタバレ気にせず感想書くので、未読の方はご注意を。4章からなる本作は、第一章「星月夜…

きつねのはなし_第四編 考察

森見登美彦氏「きつねのはなし」第四編、「水神」の考察。 ネタバレもりもりでお送りします。 【水神】 祖父の葬儀のため、京都の屋敷に集まった樋口家の一族。大学生の主人公は父と二人の叔父たちと一緒にお酒を飲みながら、祖父からあるものを持ってくるよ…

きつねのはなし_第三編 考察

森見登美彦氏「きつねのはなし」第三編、「魔」の考察。 引き続きネタバレもりもりのため、未読の方はご注意を。 【魔】家庭教師のアルバイトをする大学生の周りで頻発する通り魔事件。京都の暗い小路をうろつく魔の正体が明らかになっていくお話。 本話は「…

きつねのはなし_第二編 考察

「きつねのはなし」、第二編の考察。 ネタバレもりもり。 【果実の中の龍】 不思議なタイトルだ。 このタイトルは、主人公・先輩・瑞穂さんの手を渡るあの龍の根付のことを指している。「果実の中の龍」の意味についてぱっと連想されるものはなかったのだが…

きつねのはなし_第一編 考察

森見登美彦氏の小説、「きつねのはなし」について、読書感想文というより、謎解き・考察のような形で書いていく。一部解けなかった謎はそのまま謎として書いているので不思議リストのようになっている箇所もあるが、どうかご容赦いただきたい。(同氏の小説…

落第_勉学への姿勢

感想文を書いている間は非常に楽しいのだが、数か月経って何を書いたのかすっかり忘れた頃に読み返すと、だからなんだということがつらつらと書かれているだけの文字の集合にしか見えない時がある。 仕事に心が圧迫されて余裕のないときに、こういう寂しい考…

夏目漱石_文章による「美」の創作

夏目漱石の作品の魅力のひとつは、彼の美的センスが発揮されたロマンチシズムだ。 読み終わった後にはいつも「美しかったなあ」という印象が残る漱石作品たち。焦点が当てられる上品なモチーフたちとその鬼才的な組み合わせは、彼の美的技術の高さをうかがわ…

三四郎_完成した画の前で

完成した大きな画を前にした与次郎、広田先生、野々宮、三四郎の四人。野々宮と三四郎は共に美禰子に弄ばれた挙句実物と一緒になることは叶わず、こうして画の女の前に立つ。 三四郎に劣らず、野々宮も実に可哀そうな目に遭っている。野々宮の敗因は、素直に…

三四郎_美禰子の夫選び

美禰子がほかの男のもとに行った理由は何だったのか。三四郎はどうしたら美禰子と一緒になれたのだろうか。 与次郎曰、 「二十前後の同じ年の男女を二人並べてみろ。女のほうが万事上手だあね。…よく金持ちの娘や何かにそんなのがあるじゃないか、望んで嫁に…

三四郎_決着

美禰子への借金返済を実行に移す時が来た。美禰子がいるという画家の邸宅を訪れ、そこで彼女がモデルの絵が完成していくのを目にする。 豪奢で趣のある画家のアトリエやモデルをする美禰子の様子が繊細に説明されているこのパートは、私のお気に入りの一つで…

三四郎_余所の不幸と己の悲劇

他者の苦痛に同情する能力が薄れた現代人。新聞を開けば多くの事件事故に直面するが、それらは情報であって、悲劇ではない。三四郎は余所の子どもの葬儀を美しい光景と感じる一方、美禰子のことになると、彼女には死の悲しみがないにも関わらず、確実に苦悶…

三四郎_振り回し

美術館を出ていく三四朗と美禰子。二人の間で微妙な会話が交わされる。 「雨の音の中で、美禰子が、『さっきの御金を御遣いなさい』と云った。『借りましょう。要るだけ』と答えた。『みんな、御遣いなさい』と云った。」(199) 三四郎はこの美術館での一件の…

三四郎_美術館での美禰子のささやき

野々宮の前でこれ見よがしに美禰子が三四朗にささやいた言葉が何だったのか、三四郎が問うシーンについて。 美禰子の「用じゃないのよ」という返答に、三四郎は納得のいかない顔をする。すると彼女は「野々宮さん。ね、ね」「解ったでしょう」と、うら若き青…

三四郎_三四郎の野々宮に対する評価とその変遷

三四郎が美禰子に惹かれるに従って、彼の野々宮への評価が変化していくのが面白い。 初めて野々宮に会った時「洞窟に閉じこもって研究ばかりしている鬼才人」という印象を受けた三四郎。池のほとりで考えに耽りながら、以下のように野々宮の勤勉ぶりを称賛す…

三四郎_美禰子との出会いと大学生活の始まり

なんとも陳腐なことを書き綴ってしまった前回。今回は、「三四郎」の冒頭~講義開始あたりのところまでの空想と考察を、個人的な意見を挿し込みながら記録していこうと思う。 私は論文を書くことがとてもとても嫌いだ。型にはめこむ、ドウデモイイルールに従…

三四郎_読書感想文の前書き

三四郎の再読に取り掛かっている。 今回の読書は、この作品が漱石小説群の中で最もお気に入りであると公言するためにその明確な理由を獲得し、この作品の味を他者に伝え得る程深く理解することを目的としている。 私がこの作品を気に入っている理由は、実は…