君たちはどう生きるか_なつやすみ日記

宮崎駿監督の最新作、「君たちはどう生きるか」を観てきた。

ネタバレを含みますのでご注意を。

また、今回の感想文は非常に私的なものになったので、映画の考察を求めている方のご希望には添えないことをここに断っておく。なつやすみ日記くらいなものと捉えていただければ、そうがっかりすることはないかと思います。

 

 

 

 

映画から受ける直感を楽しみたいと思っていたから、できるだけ前情報を入れないようネット検索などは控えていた。しかし鑑賞前にツイッター上でネタバレとは程遠いけれど先入観を植え付けるような刺激的な情報に出くわしてしまった。主題歌発表のニュースを見たことすら後悔するくらいこの作品の全てに驚きたかった私は、先に「刺激的な情報」と述べたツイートと出会ってしまったことを幸か不幸か未だに分からないでいる。ただ、この映画をとても楽しめた事実だけがここにある。

 

刺激的と書いたものの、実際はほんにくだらないことかもしれない。「しょうもな」と思う人もいることを承知の上で、該当ツイートについて紹介する。私が見たツイートはもう埋もれてしまってどれかわからないが、「君たちはどう生きるか ダイナミック」で検索をかければいくらでも出てくるのでご興味あれば調べてみてください。

ダイナミックコードというアニメをご存じだろうか。私がこの傑作と出会ったのは一昨年の暮れ、友人からの紹介だった。「見る抗うつ剤wwwめっちゃ面白いから観てwwww」というメッセージと共に、ダイナミックコードの動画リンクが送られてきた(Youtubeでは迷場面集としてまとめられているものがあり、ニコ動またはDVDではフルで観られるらしい)。友人が意気揚々と私に送りつけてきたその動画を観たのだが、視聴一回目では「?」という感じで、スマホの小さな画面で流し見していたせいか、あまり面白さが伝わってこなかった。しかしあまりにも友人が熱心に推すのでもう一度画面を凝視しながら観てみると、あら不思議、めちゃくちゃ面白い。集中して絵をよく観察&コメントをちゃんと読むことで、キャストの豪華さや絵の華やかさだけでない味わいを楽しめる。また、以前ツイッターで私がそれと知らず「ダイナミック違法建築」なるものを見て知っていたことも面白さに拍車をかけた。なんでこんなしょうもないこと覚えていたんだろう…
本題から逸れて随分経ってしまったのでダイナミックコードの紹介はここまでにしておくとして、このアニメがどう映画に関わってくるかというと、鳥だ。ダイナミックコードにおいて「ダイナミックバード」と呼ばれる動的鷺が、どうやら映画に関係しているらしい。ツイートから詳しいことは分からなかったが、詳細が気になるとはいえ検索しているうちにネタバレを食らうなんてことがあったら大変だから、このままツイッターを閉じた。

 

 

その数日後、映画を観た。

 

 

まずはまともな映画感想から。

私の大好きなジブリのキャラクターデザイン・背景が健在で、まずはそこに安堵した。
一鑑賞者の勝手な希望だが、ジブリのキャラクターはこれまでの宮崎駿監督作品の登場人物たちのような丸みを帯びた顔立ちをしていてほしいし、背景の手描き感というか、絵画のような画風は失われてほしくない。実写みたいにリアルで立体的なアニメーションも綺麗で観て楽しいものだけど、動く絵画のようなジブリ作品を愛する気持ちも強い。本作は後者の想いを満たしてくれる作品だった。引っ越し先のお屋敷は「陰翳礼讃」で語られているような薄暗さがもたらす美が、あちら側の世界では洋書からインスピレーションを得たであろう西洋的な鮮やかさを湛えるインテリアの美が画面を飾る。自分を飲み込むくらい大きなスクリーンでこの作品を観られることは幸せだなあと鑑賞中純に寿ぐほど、映画館で観ることに価値がある作品だったと私は感じている。画集が出たら買おう。

 

物語について。

少年が異世界に迷い込み、ちょっと成長して現実に戻る物語という意味では「千と千尋の神隠し」と近い運びだった。迷い込む異世界の様相は「君たちは…」では西洋風、「千と千尋…」では東洋風と、かなり違うけれど。
また、隕石の塔に魅了されて&本を読みすぎて頭がおかしくなって妄想の世界(架空の世界というわけではなさそうだが)に行ってしまい、その世界のバランスを保つ者として毎日石を積み上げる=世界を造り続けている眞人の大叔父の姿は、森見登美彦「きつねのはなし」の第二編「果実の中の龍」に出てくる先輩とそのおじいさんを彷彿とさせた。読書に囚われた人間の描き方が2作品で重なるのが面白い。この2作品に限らず、本読みの成れの果てはこのように描かれるものなのかもしれないが。

知的好奇心やものづくりへの衝動は血が、細胞が生み出しているが、眞人は大叔父さんの思想と世界構築を引き継ぐことはせず、自分の世界を生きていくんだ、自分の世界を作っていくんだと決意を固める物語だと、私の目には映った。

 

作中で、ああジブリだなと思ったところが何点かある。

ひとつめは、眞人がアオサギを躊躇なく殺そうとするシーン。
彼はアオサギから何かしらの悪意を皮膚で感じ取っていたのかもしれないが、鳥の正体がよくわかっておらず、特に被害も受けていないうちから殺そうとする。ジブリの登場人物にはこういう種類の勇気を持った人が時々いる。それが残忍さとして描かれているのか、生きる上での逞しさとして描かれているのか計りかねるところがある。

ふたつめは、眞人が義母を現実世界に呼び戻そうとするシーン。
眞人は義母が自分を拒絶しているという真実を知ってなお、産屋に籠る義母に「お母さん」と呼びかける。精神的ショックの大きい場面だが、主人公は逃げ腰になったり塞いだりすることなく、ただ目に涙を湛えながら必死に呼びかけて義母を取り戻そうとするところにジブリの人間らしさを感じた。眞人のこの行動になぜジブリだなあと感じたのか詳しい理由はまだ自分の中で見つけられておらず、現状直感に近いのだが、健気とはまた違った力強さを感じさせる真直ぐさと少しの幼さを孕んだあの小/青年像がジブリのアイコンのひとつなのかもしれないなと思っている。
無慈悲・冷徹にも見えた主人公が内に秘める愛(それが他人に向けたものか自分が欲しているものかはわからないけれど)が表出した印象的な場面だった。

 

 

最後に、阿呆らしい感想を。

私的ベスト印象賞はダイナミックバードに贈られる。
初登場シーンの彼は小さく美しく静かなアオサギ。主張が少なめだったため「あーこれがダイナミックバードね、話題にするほどダイナミックじゃないな~ 全くツイッターは大袈裟だな~」と思っていた。しかし次第に彼はキーキャラクターの匂いを醸してきてどんどんダイナミックになってゆき、彼にフォーカスが当たるたびに私の頭の中では「ダイナミックバードだ!ダイナミックバードだ!」と子どもの声が飛び交って邪魔だった。
この2作品の内容に関連があるはずもないのだが、ダイナミックバードの一点だけが時空に穴を開けて異次元間を行き来しているようだ。こんなことを嬉々として書きつける私の脳細胞の幾分かはこの暑さでお陀仏になっているのだと予想がつく。