リズと青い鳥_映画感想文

敬愛する山田尚子監督の傑作。
女子高生たちの可愛らしさを盛り立てる素敵な音楽を担当されたのは牛尾さん。
今更ではあるが、観れてよかった。

桐島、スキップとローファーに続いてまた高校生のお話。意図せず青春に塗れている。

 

まずは、正直な感想。

胸が苦しくなる映画だった。高校時代という人間的に未熟で自分自身のことでいっぱいいっぱいになりがちな時期に、友人を振りまわしたり振りまわされたりする様子が、音楽と視覚と比喩をふんだんに盛り込んで表現されている。
大きな事件が起こるわけじゃないし、怒鳴り合いの喧嘩をするわけでもない。でも高校生活の日常に潜む歪み、普段は目配せ程度でしか表出しない歪み、たぶん女子社会に多い神経質な歪みがアニメーションならではの手法で表現されていて、精神に響く。淡く可愛らしい色使い・繊細な表情と、映像の意味するシビアな現実が、相乗効果で恐ろしいパワーをもって心を抉りにくる。
これらは誉め言葉である。美しい絵と音楽、そして「山田尚子節」なる素晴らしい演出を観れたことは間違いなくいい体験だった。

 

この作品で一番印象的だったのは、のぞみが持っているフルートに反射した光が、向かい合う別棟にいるみぞれの上でゆらゆらするシーン。

水槽を通して入ってきた光の、色が分裂して虹色がかっているのが綺麗。
また、ここで水彩画調ののぞみのステップにに合わせてピアノが鳴るシーンも、みぞれが大切にしているのぞみ像がこちらに生き生きと伝わってきて、なんて素敵な演出なんだ…!と感動した。
ふぐの水槽の前で目を閉じて束の間の休息をとるみぞれが、自分に投げかけられている強い光に気づいてぽかんとするところ、そして光があっちにいったりこっちにいったりと揺れ動くところが美しい名場面だった。

 

この作品は言葉での説明がなくとも登場人物たちの性格が把握できるように作られているのがすごい。

みぞれの反応がワンテンポ遅くて会話についていくのが難しいところとか、逆にのぞみはなんでもちゃっちゃとやりたいという性格が、2人の掛け合いからも見て取れて面白かった。みぞれはひとつひとつのやり取りを大事にしていて、毎回考えすぎてしまうから反応が遅くなってしまうのかもしれない。図書館でのシーンを見ると単にぼーっとしがちな性格というのもありそうだけど。のぞみは友人と心で深く繋がるみたいな関係は求めていなくて、"表面上みんなと楽しくやれればオールオッケー"なスタイルをとっているように見える。
このふたりは仲良がいいはずなのだが、親友的な関係が長くは続かないという予感が序盤から漂っている。絶対に分かり合えないところが最初からあって、それを無視していままでなんとか続いてきただけの関係なので、いずれその問題を解決するためにぶつかるか、問題はそのままに袂を別つか、決めなければいけない時がくるのだ。

部長さんと茶髪の子(名前が分からない)はこの二人の危うさを察知している。部長さんからは、彼女たちの様子を見つつも必要そうなところでははっきりと意見を言える気の強さ、正義感みたいなものが伺える。茶髪の子はみぞれとのぞみ両方の都合に配慮して、さりげなくフォローする姿が印象的。

あと、みぞれの後輩ちゃんたちが非常に可愛い。何を食べたらこんなに可愛く育つんだろう。この子たちみたいな後輩いたら可愛くてしょうがないだろうなあ。

 

 

突然ですが、ここから先は超個人的かつ主観的な感想になるので、作品から受けた美しい感覚を損ないたくない方は読み進めないことをお勧めします。

 

 

 

 

先に、以下の感想は作品批判では全くないことを念のため、本当に念のため断っておく。
綺麗で面白いものだけじゃなくて、人生の苦労も合わない人との関係も思い通りにならないアレコレも鑑賞者の心に届けようとするのが映画なので、登場人物に好きじゃないタイプの人間がいたとしてもその「好きじゃない」感情は作品本体とは関係ない。これは映画に限ったことではないが。私が物申したいのはフィクション作品のキャラクターの振る舞いについてであって、「もしこんな人が同級生にいたら」という空想がベースになっていることをここに書いておく。

 

のぞみがかなり嫌なやつに見えてしまったのは私だけだろうか。私にはこのストーリーが「無神経な人間に内気な人が蹂躙される」という構図に思えてしまった。のぞみの身勝手な行動と妬みに振り回されて疲弊するみぞれが不憫で見ていて辛かった。でもこういうのって決して珍しいことではないんだろうな。

また、「みぞれがリズで、私(のぞみ)が青い鳥」だと思っていたというのも、みぞれからの強い愛情や部活社会における立ち位置などの状況を把握したうえでみぞれに「捕まってあげていた」みたいな思考があるような気がして怖い。最終的には自分のみぞれに対する嫉妬心を告白するし、これは勘繰りすぎかもしれないけども。

のぞみは悪気があってやっているわけではないし、現にみぞれはどんなに酷い扱いをされたってのぞみに感謝しているでもそれはみぞれが悪意や敵意に対して鈍感かつプライドが低いからであって、それなりのプライドを持った人が「親友だと思ってた人が自分に何も告げずに部活をやめる、やっぱりやりたくなったからと急に戻ってきてソロパート任されてる、そんで音大に行こうかなーでもお金かかるしなーとか言ってる」みたいな目にあったらブチギレてオーボエで殴っても責められる道理はない、否、暴力はいけない。
まあただ、色んな人と分け隔てなく仲良くしていきたいのにノリが合うわけでもない人からこの先も一生続きそうな依存をされるのは面倒だなあ(辛口すぎたかも)と思うのぞみの心理がわからないでもない。
また、自分がどんなに努力しても横に並べないくらい圧倒的な才能を持った友人と一緒にいると、劣等感から逃れられなくて辛いから、あえて突き放すような雑な態度をとりたくなる気持ちも理解はできる。のぞみは人間関係も趣味も広く浅くありたいのかもしれない。少なくとも、そう見えるようにライトに振る舞っている。
だが私個人はみぞれと近い感覚の持ち主なので、のぞみのような楽観主義者の雑なところには眉を顰めてしまう。

みぞれの片思いが成就することも、大学進学後もこれまでと同じような距離感で仲良していくこともないだろう。でも、きっとみぞれはどんな想いも自分の好きな音楽を豊かにするための材料にしていける。そう思わせてくれるラストだった。