美禰子への借金返済を実行に移す時が来た。
美禰子がいるという画家の邸宅を訪れ、そこで彼女がモデルの絵が完成していくのを目にする。
豪奢で趣のある画家のアトリエやモデルをする美禰子の様子が繊細に説明されているこのパートは、
私のお気に入りの一つである。
こういった美しい描写は、読者の頭の中の一角を美術館にする。
三四郎と美禰子は二人そろって画家の家を後にする。
美禰子がなぜ画家の家に来たのかと尋ね、はっきり答えかねる三四朗。
しかしこれ以上決着を先延ばしにするわけにはいかない。
「ただ、あなたに会いたいから行ったのです。」
これが彼に言えるすべて、彼の真直ぐな想い。
美禰子はまともに応答しない。
ただ、絵のことを話し始めた。
絵の描き始めの時期が、三四郎と美禰子が池でお互いを見たときと重なる。
「『あなたは団扇をかざして、高いところに立っていた。』
『あの画の通りでしょう。』…」(241)
三四郎のひとめぼれの、美しい光景が絵になっていく。
思い出の光景、記念の光景。
絵の完成を待たずに、彼女は三四郎に見切りをつけていた。
美禰子は西洋風な背の高い男のもとに行ってしまった。…
(原文に西洋風とは書いていないが、私の頭の中において美禰子の旦那さんはモダン好きなスーツ姿の金持ちという設定である)
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