2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

夏目漱石_文章による「美」の創作

夏目漱石の作品の魅力のひとつは、彼の美的センスが発揮されたロマンチシズムだ。 読み終わった後にはいつも「美しかったなあ」という印象が残る漱石作品たち。焦点が当てられる上品なモチーフたちとその鬼才的な組み合わせは、彼の美的技術の高さをうかがわ…

三四郎_完成した画の前で

完成した大きな画を前にした与次郎、広田先生、野々宮、三四郎の四人。野々宮と三四郎は共に美禰子に弄ばれた挙句実物と一緒になることは叶わず、こうして画の女の前に立つ。 三四郎に劣らず、野々宮も実に可哀そうな目に遭っている。野々宮の敗因は、素直に…

三四郎_美禰子の夫選び

美禰子がほかの男のもとに行った理由は何だったのか。三四郎はどうしたら美禰子と一緒になれたのだろうか。 与次郎曰、 「二十前後の同じ年の男女を二人並べてみろ。女のほうが万事上手だあね。…よく金持ちの娘や何かにそんなのがあるじゃないか、望んで嫁に…

三四郎_決着

美禰子への借金返済を実行に移す時が来た。美禰子がいるという画家の邸宅を訪れ、そこで彼女がモデルの絵が完成していくのを目にする。 豪奢で趣のある画家のアトリエやモデルをする美禰子の様子が繊細に説明されているこのパートは、私のお気に入りの一つで…

三四郎_余所の不幸と己の悲劇

他者の苦痛に同情する能力が薄れた現代人。新聞を開けば多くの事件事故に直面するが、それらは情報であって、悲劇ではない。三四郎は余所の子どもの葬儀を美しい光景と感じる一方、美禰子のことになると、彼女には死の悲しみがないにも関わらず、確実に苦悶…