三四郎_振り回し

美術館を出ていく三四朗と美禰子。
二人の間で微妙な会話が交わされる。

「雨の音の中で、美禰子が、『さっきの御金を御遣いなさい』と云った。
『借りましょう。要るだけ』と答えた。
『みんな、御遣いなさい』と云った。」(199)


三四郎はこの美術館での一件の後、美禰子とは気まずい関係になっているのかと思いきや、意外にも彼女に会いたがっている。
会いたいけれど、あまり早くにお金を返しに行くのは折角貸してくれたのに悪い気がするから、
彼女の家の前で少し悩むだけで中には入らない。
でもやはりお金は然るべきタイミングで確実に返さねばと考えている。

こんな風に、お金を貸してくれた彼女の好意に背かないようにと気を使っている。
どうやら美術館でのひと悶着で美禰子に失望したというわけではないらしい。

やっぱり美禰子に会いたい。
そしてお金も返したい。

お金は返さなくていいと繰り返す美禰子の思惑を読めなかったのか、
それとも彼女の意図を読んだうえであえて反抗していたのか。
三四郎はただひたすら「お金を貸してくれている」という状況への申し訳なさ一本で、借金返済のために動いていた感じがある。

美術館での悪戯によって一度下手に下った美禰子は、持ち前のたぶらかし技術であっという間にまた高嶺に上った。

彼が書いた礼状に返事をせず、偶然会ったときには冷淡な挨拶。
しかし三四郎が適当に指した香水をすぐに買い、好意ともとれるような態度をとる。
これまでと同じ、繰り返しである。

彼女はやはり策士だ。
意図的にじらしたり媚びたりして、彼の感情を乱高下し、こちらへの関心をひきつけ興味を切らさないように仕組んでいる!かもしれない。
back numberの「魔女と僕」が頭の中で流れる。

 

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夏目漱石(2000) 『三四郎』[第二版] 新潮社